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2020/10/7

SPECIAL INTERVIEW vol.3 – Tangerine

Tangerine

若山 優一朗

愛媛

2、3か月ごとに設定されるテーマのもと、ストーリーが感じられるモノ・コト・ヒトをキュレーションする「EQUALAND SHIBUYA」。このたび、EQUALANDがキュレーションしたブランドに関わる「ヒト」にフォーカスしたスペシャルインタビューを公開。

第3回目は、愛媛県宇和島市にある実家のみかん農家と、さまざまなカルチャーとかけ合わせ、新しいブランドとして育て拡げてゆく、みかんジュースとアパレルのブランド「Tangerine」さんのストーリーを紹介します。

みかんと、観光と、カルチャーと。Tangerine・若松優一郎が、毎日山を歩きながら想像する、みんながハッピーになるための野望。

スケーターがつくるみかんジュースとアパレルのブランド。若松優一郎さんが手掛ける「Tangerine」は、そんな言葉で紹介されます。愛媛県宇和島市にある実家のみかん農家を、さまざまなカルチャーとかけ合わせ、新しいブランドとして育て、拡げてゆく。その独自のセンスと言葉を超える「おいしさ」で、「Tangerine」のみかんジュースは入荷するたびすぐに売り切れてしまうほどの人気を集めています。こうして文章にすると、きらびやかに活躍する都会的な人物像が脳裏に浮かぶかもしれません。でも、若松さんが実家の畳に腰をおらしながら語る言葉は、真摯で、実直で、そして軽やか。そこにはしなやかで暖かい信念が宿っています。

木のバイオリズムを見つめる、みかん農家の生活。

-若松さんは、愛媛でみかん農家として働いているんですよね。

愛媛に住んで、愛媛で働いてます。東京に行く時は友達の家か親戚の家に泊まらせてもらうんですけど、今年は3月以降行けてなくて、2018年の4月に愛媛の実家に帰ってきて、じいちゃんとばあちゃんがやっているみかん農家を継ぐ形で修行中です。あと5年ぐらいは修行かもしれない。

-まだ修行中という感覚なんですか?

みかんの苗木を土に植えて、それが大きくなって、一本の木からみかんが100個以上取れるようになるまで、あと5年はかかるんですよ。その過程を見守ることができたら、一人前かなって。

-「Tangerine」というブランドよりも先に、みかん農家というアイデンティティがあるんですね。

まずは「みかん農家」が最初にあって、そのみかんを使ってみかんジュースをつくったり、Tシャツを作ったりして、「Tangerine」という名前で売っています。表に出るのはTangerineの商品なんですけど、気持ちとしては農家です。

-みかん農家の1日について教えてください。

季節によってやることが変わるんですけど、基本的にはずっと外仕事です。夏は朝と夕方に働きますね。5時半に起きて、6時くらいに山に行って、10時半くらいまで働いて、昼休憩して、午後は15時くらいからまた山に行って、18時くらいに帰ってくる。それで飯食って寝ます。夏はみかんの子供ができてくるんですけど、木にもともとついてる量が100%だとしたら、70%ぐらいまで実を落として、木の力を使いすぎないようにするんですよ。そのまま100%でやっちゃうと木が疲れちゃって来年の春に芽が出ないから。

-木のバイオリズムが生活の中心にあるってことですか?

まさにそうです。木の調子を見て、コントロールするのが仕事です。毎年の収穫量を一定数にするために、外敵から守ったり。地元にはみかん農家が多くて、知識はたくさん得られるけど、それぞれの価値観とか感覚もあるし、自分はみかん農園として何が軸にあるのか、その確信がまだ掴めていなくて。これからいろんな病気になるだろうし、いろんな問題が起きるだろうし、それを全部わかりたい。毎日ばあちゃんに文句言われて、一個ずつ学んで…それの繰り返しですね。今は。

-みかん農家を継ごうと決めた一番の理由は、どういうところだったんですか?

生まれた場所がみかん農家だったからっていうことです(笑)。といいつつ、もちろんそれだけじゃなくて、大学で観光業を勉強して、海外に行くなかで、観光業は自然と密接だってことを実感したからですね。オーストラリアとカナダにロングステイして、サンフランシスコ、シカゴ、ロサンゼルス、ニューヨーク、中国もハワイにも行きました。観光地って、人間が作ったものもあるけど、究極は山とか滝とか、自然の景観を活かしているんです。それなら、みかんの農園ってすごい観光資源になるぞ、と気づいて。「絶対いける!」って熱くなったんですよ。そのまま継ぐだけじゃつまらないから、自分の好きなカルチャーとうまくつなげたいな、って思って、Tangerineを立ち上げたんです。

-スケートボードとみかんっていうつながりがTangerineの魅力をより際立たせていますよね。

身近にあるものを有効に活用したり、組み合わせたりするのが、結構得意なのかもしれません。逆に「一から何かを生み出して全部変えよう」ってことができないんですよね。

ジュースがただのジュースじゃなくなるために。

-Tangerineのジュースの価格って、やっぱり「ジュース」という目線で見ると高いと感じる人もいると思うんです。この価格って、どうやって決まっているんですか?

愛媛の道の駅では、みかんジュースって800円くらいで買えるんですけど、EQUALANDでは1750円ぐらいで売っていますね。僕がこの値段で売っていることを、ばあちゃんは「まじで詐欺じゃん、誰が買うの?」って感じで言ってくるし、僕ももっと安くしたくなっちゃう方なんですけど、結婚して生活を支えていかなきゃいけないっていうのがまずあって。あと、みかんジュースの価値について本気で考えると、720mlの瓶の中に、みかんが2,30個分ぐらい入ってるんです。その2,30個って、だいたい1キロくらいになるんですよ。その大量のみかんを工場に持っていって、絞って瓶に詰めてもらうと、みかん代金とは別で、一本300円くらいかかるんです。自分たちがみかんを面倒見てきたお金を入れれば、原価は500円以上。輸送にも人件費がかかるから、道の駅で800円で売っても、全く儲けになっていないんです。大企業のペットボトルのジュースと比べると高いかもしれないけど、いち農家がつくって800円で売るのって、ヤバイんですよね。「それが普通だから」っていう農家が多いけど、そんな状況を変えていきたいなって思うんです。自分たちの幸せも大切にしないといけないし、もうちょっと価値を高めていかなくちゃなって。

-大量生産で安く販売するのは、確かに便利だけど、安さだけを追い求めると、みんなの暮らしがどんどん苦しくなっていきますよね。物の価値を高めるということに目を向けないといけない。

シビアに考えていくと、大量生産の薄利多売は、実はネガティブな側面も多いんですよね。自分がお金を出して、自分の生活に入れていく物の価値がどうやって決まっているのか知った方がいいし、生産の現場に身を置かないとわからないことってある。買う側も、商品の背景とか、どれだけ気持ちと時間を注いでいるのか理解して、納得できたら、買うっていう行為がもっとポジティブになるんじゃないかなって。だから、僕はそういう部分も伝えたいんですよね。もちろん見た目で「めっちゃかっこいい」って理由で買うのも全然いいと思うし、それが入り口になるかもしれないけど。

-同じ飲み物で言えば、ワインは文化として根付いていて、高い価値がつけられていますよね。

まさに、ワインの感覚でみかんジュースを買って欲しいんですよ。ワインは720mlのボトルで6杯、7杯ぐらいしか飲めないのに、5000円以上するのが当たり前。みかんジュースもそれくらいの価格で売れたら最高ですね。金額だけの話ではなくて、どういう品種のみかんなのか、どんな絞り方なのか、作ってる人やラベルのデザインにも目を向けたりして、いろいろ考えながら飲んでもらえたら面白いし、もっと美味しいと思うんです。付加価値を生み出せば、ジュースがただのジュースじゃなくなって、すごい幸福感が得られるものになると思うんです。

-ワインのこと詳しくないですけど、たとえばフランス、イタリアは、ワインの歴史を尊重して、文化として国を挙げて大切にしていますよね。ワインの生産地・生産者をきちんと評価する体系的なシステムがある。それって文化の価値を上げていく良いやり方で、みかんジュースもそういうことができるといいですよね。

確かにそうですね。コンテストとかもやってるんですけど、やっぱりちょっと値段が安いな、とかって思うんですよね。ジュースとして甘く見てる。もちろんジュースだし、甘いんですけどね(笑)。考えただけでめっちゃ大変で頭痛くなっちゃうから、誰かいっしょにやってくれないかな。

-EQUALANDはそういう部分を見出してキュレーションするという機能を果たしてますよね。

たしかに!今後もよろしくお願いします。

関わり合う人、みんながハッピーになるような場所を探して。

-価値といえば、Tangerineを見ると単純にかっこいいなって多くの人が感じると思うんです。みかんジュースの認識が少し変わったと思うんですけど、若松さんにとって「かっこいい」ってどういうことだと思いますか?

わかんないですよね(笑)何がかっこいいんでしょう。でも、いろんな角度でいろんなものを見るってことかもしれないです。いろんなものが混ざった上でTangerineがあって、それが面白く見えたりかっこよく見えたりするのかもしれない。Tangerineのロゴはみかん農家のロゴっぽくはないじゃないですか。それがいいのかな。あと僕が髪長いとかもあるかもしれないです。農家でこんなに髪長くて、みたいな(笑)。何がかっこいいかわかんないけど、かっこよく生きるっていうのは大切なことだし、気持ちがいい生活をすることが大切なのかもしれないです。

-自分の生活の中で必要なものとか好きなものとか大事なものを、ちゃんと大事にしていくっていうことですよねきっと。

そうですね。確実にそうです。

-その、かっこよさが、これまでのみかん農家の概念を広げて、新しく興味をもってくれる人を増やしているわけで。そうやって関わる人を拡大しながら何かに挑戦しようみたいな思いはあったりするんですか?

東京の友達を起点にして広がっていくことも大切なんですけど、やっぱり地元の宇和島でどうやって受け入れてもらえるかが大事だと思っていて。そういう意味では、最近市の広報紙の特集になったのが嬉しかったですね。宇和島市の全家庭に配られたんです。地元に住んでいる人は、県外から来たお客さんに「よくこんなとこに来たね、何もないのに」みたいなこというんですけど、「それは言っちゃ駄目でしょ」って昔から思ってたから、そういう内容をしっかり書いてもらえて、それが地元の人の目にとまるところに載ったのは、本当に嬉しかったです。町の人たちとの繋がりをつくるのは、帰ってきてからずっと当たり前に意識してますね。

-身近なところの意識から変えないと何も変わらないんですよね。

観光地って、地元の人が愛してくれないと持続できないんです。僕の夢は、民宿とカフェと、みかんと山と、あとスケートパークをいっしょにした場所を作りたいってこと。地元の人もその場所が大好きで、コーヒー飲んだり、婆ちゃんがお茶しに来たり、ママさん会議していたり、夜になったら飲んべえが来て…みたいな。観光しに来た人は、山を体験して、スケボーもできて、そのまま泊まれたり。なぜかいろんな人が集まって、地元の人とこっちに来た人がそこでコミュニケーション取って…宇和島のおすすめの飯屋とか飲み屋とか、ここの景色超いいよとか、些細な日常のいいところを紹介しあって、来る人も住む人もめっちゃいい経験できたら最高でしょ?そういうコミュニティが一番いいなって思うんですよね。

-すごく素敵ですね。それは、いつごろまでを目標にしているんですか?

そこを決めれないんですよ(笑)。まず大事なの地元の人たちといっしょにやっていくこと。僕は誰かを傷つけたくないし、自分が成り上がりたいわけでもなくて。自分がやりたいことは自分のためだけど……自分が楽しい人生にしたいなら、宇和島の人も、県外から来る人もみんながハッピーじゃなきゃ。そう思うんです。